ChatGPT などAI開発は停止すべき!? 「シンギュラリティ」の何が脅威なのか【仲正昌樹】
■カーツワイルの予言とGPT-4の実情
AIについてごく素朴な見方をすれば、生命維持機能を持たないAIは、動物と同程度の志向性さえ持たない、ということになるだろう。しかし、ディープラーニングなど、AIに“自発的”に学習させる(と見ることもできる)方法や、ネット上のビッグデータと連動して、情報を自動的にアップデートさせていく方法が開発され、一般化し始めたことで、様相は変わってきた。AI開発者・批評家のレイ・カーツワイル(一九四八- )は、これまでの技術革新の状況から、二〇四五年に「シンギュラリティ」が到来すると予言した。
カーツワイルの予言はかなり漠然としていて、何をもって「シンギュラリティ」を越えたと言えるのかはっきりしていなかった。しかし、こちらからの問いかけに対し、あたかも生身の人間のように応答してくる、GPT-4の登場を、「シンギュラリティ」に向けての決定的な一歩だと、受け止めているこの方面の専門家たちがいる。カギになるのは、「チューリング・テスト」だ。
初期のAI開発で重要な役割を果たした英国の哲学者アラン・チューリング(一九一二-五四)は、一九五〇年の論文「計算する機械と知性」で、AIが人間と同じ知性を持っているかどうか測る基準として、相手が生身の人間か機械か分からない状態で、やりとりさせて、相手が機械だと見破れない人が多ければ、それは人間の知性を備えていると判定するというチューリング・テストを提案した。GPT-4が、専門家たちの関心を引くのは、チューリング・テストをクリアしてしまう可能性があるからだ。
しかし、GPT-4も含めて、GPTシリーズに出来るのは、与えられた質問に対して、内容だけでなく、文法や語彙の選択、文の配置、論理展開の面でも、かなり正確な解答ができる、ということだ。普通の人が仕事や勉強にPCを使い始めた一九八〇年代半ばくらいの状況と比べれば、普通の人間の言葉で出された質問をAIが把握するだけでも、信じられない進歩だ。下手な生徒・学生の作文を、「Google以下」と言っていた十年くらい前の状況と比べても、フェーズが変わったという感じはする。
しかし、GPT-4でも、ネット上に、解答サンプルになる文が容易に見つからないような問題にまともな解答をすることはできない。例えば、「仲正昌樹とはどんな人間か」といった問いに対しては、日本語にはなっているけれど、かなりでたらめな答えしか返ってこない。「仲正の政治思想をどう評価すべきか」、とかになると、一つ一つの文は一応意味があるが、並べると何を言っているか分からない、文の羅列になるはずだ。トランプとかイーロン・マスク、ビル・ゲイツ等の、超有名人の、よく知られた活動でないと、「正確」な解答は得られない。